数十万円かかるモーキャプスタジオ費用がなんと無料に! インディーゲーム『ジラフとアンニカ』に見るATL活用事例


2017年6月にオープンし、VRゴーグルモーションキャプチャー機器グリーンバックスタジオといった先端の設備をそなえたアドバンスドテクノロジーラボ(ATL)。技術者やクリエイターなら垂涎ものの機材が、ラボの研究員になることでなんと無料で使えるというのがスゴいところです要事前予約

個人や少人数で面白いことをやろうとしているひとたちにぜひ活用いただき、世の中にもっとイノベーションを巻き起こしていきたい。そんな思いの元、1年以上運営してきており活用事例もどんどん増えています。

前回のインディー映画『爆裂!カンフーミサイル』に続いて、今回はatelie mimina (アトリエ ミミナ)が制作中のインディー3Dアドベンチャーゲーム「ジラフとアンニカ」を紹介します。


主人公である猫耳少女の「アンニカ」が不思議な島「スピカ島」を冒険し、失っていた記憶を徐々に取り戻していくという内容で、ソニー・ミュージックエンタテインメントのパブリッシングレーベル「UNTIES」(アンティーズ)より2019年前半の発売を予定しています。

単純に島を歩き回って謎を解いていくだけでなく、イベントシーンはマンガ、ボス戦は音ゲーと、バラエティーに富んだスタイルが特徴です。ATLでは、このボス戦のダンスシーンをモーションキャプチャーシステムの「OptiTrack」を使って収録しました。どこにこだわりがあって、ATLを選んだ理由は何なのか。atelie mimina代表で、ゲーム作家/デザイナーの紙パレット(斉藤敦士)氏にインタビューしました。


紙パレット氏。某ゲーム会社に20年ほど務めたのち、独立してatelie miminaを設立。現在、『ジラフとアンニカ』の制作に専念している。

●「ジラフとアンニカ」公式サイト
https://www.giraffeandannika.com

●最新トレイラー

・原作/制作/キャラクターデザイン:紙パレット
・音楽:TOMZUIN H
・サウンド/音楽チャート:m田m
・キャラクターデザイン:トモノリ
・3D背景モデリング/背景アート:Motonak
・QA:湯之介
・ゲーム内アート/デザイン:SHIMO
​・2D/コスチュームデザイン:しょこた
・漫画シーン作画/カニ大王:ころ
・3Dキャラモデリングお手伝い:深川 克人
・ロボキャラクタデザイン:稲葉コウ
・漫画シーン作画:とさか
・3Dモデル制作協力:Mikan3D inc.


主人公のアンニカちゃん。


美麗なグラフィックの島々を歩き回って……。


謎を解いていく。

映画1本分を見た感動を味わえる濃密なゲーム

──『ジラフとアンニカ』でここを一番見て欲しいというところを教えてください。

紙パレット ほのぼのとした世界観ですね。ちょうど2002年にリリースされたゲームキューブ向けゲーム『ゼルダの伝説 風のタクト』に出てくるのと同じサイズぐらいの島々を歩き回って冒険します。

──ほのぼのといわれると?

紙パレット 色々なところを歩き回れるオープンワールド的なゲームというと、車を盗んでやりたい放題できる……みたいな作品もありますよね。でも『ジラフとアンニカ』は銃を撃って倒すような暴力的な要素はなくて、不必要に人が死なないんです。アンニカは基本的にジャンプしたり避けていくことぐらいしかできずに、敵は倒さない感じです。激しいアクションを求める層には合わないかもしれませんが、戦いに疲れてほのぼのとした世界で時間を過ごしたい人にはぴったりだと思います。

──いいですねー。キャラが死ぬことはあるんですか?

紙パレット 一応、水に落ちたり、お化けに当たったりして死ぬこともありますが、自分から攻撃はしない。避けるだけという。

──世界観がほのぼのだと、なんとなく他のプレイヤーと会話できるようなソーシャル機能が欲しくなります。

紙パレット そうですね。ただ、本作ではストーリーを楽しんでいただくところを重視しています。僕自身が個人の時間を奪うタイプのゲームがあまり好きじゃなくて、世の中にある色々な面白いものをできるだけ多く体験したいタイプなので、映画1本分を見るぐらいな2、3時間でクリアーできるゲームを目指しています。当初考えていたのが2012年にPlayStation 3向けに発売された『風ノ旅ビト』で、あれもプレイ時間が短くて2時間ほどで忙しい中でも遊べる。大人になるとゲームする時間を確保するだけでも大変で、プレイ時間が50時間とか100時間とか書いてある時点でやる気がなくなってしまうので……。

──わかります。でもここまで丁寧に作っていると、開発者としてはもっと遊んで欲しいですよね……。

紙パレット 実際は4、5時間ぐらいは遊べるようになってますが、クエストとしてはほぼ1本道なので、映画を見て得られるような感動をゲームのプレーで味わえるようにしています。アニメは溜まっても1.5倍速で見ることができますが、ゲームはそうできないですから、短編映画のようなゲーム体験を「2、3時間でクリアーできますよ?ちょっとやってみませんか」みたいな。

──いいですねー!

紙パレット 壮大なゲームにしてしまうと個人でつくりきれない可能性があるので、ストーリーもそんなに長くなくて、個人で作れる範囲に留めています。島にあるダンジョンも最初から5つにしようと決めてましたが、それでも大変で3つにしておけばよかったと。

──(笑)。確かに最近のゲームは、1本あたりのかかる時間って伸びる傾向にあります。

紙パレット だから2、3時間で濃い体験ができる方向性もありなんじゃないかと。すでに制作に3年ほどかけていますが、例えばピクサーの映画でも作るのにも同じぐらいはかかるわけです。短い時間で印象的なお話をプレイヤーに体験してもらえれば、ずっと心に残ると思うんです。

ただ、映画的なゲームというと、区切りでムービーが流れて、ひたすらボタンを連打して操作することがないみたいなものもありますが、本作では世界を移動してキャラクターと話していくだけで自然とストーリーを体験できるように工夫しました。間にマンガパートがあって、それを描くのも大変だったりします。

──えっ、マンガも自分で描いているんですか?

紙パレット ストーリーを自分で考えている都合上、マンガもネームと軽いラフまでは自分で描いて、仕上げを友達にお願いしている感じです。もともとキャラデザイナーなので。マンガを入れたのは、よくゲームのストーリーを説明するために画面下のウィンドウにテキストが出てくるじゃないですか。あれがあまり好きじゃなくて、ウィンドウにしちゃうとテキストとキャラの表情で全部状況を説明してしまうことになる。そうするとセリフがだらだら長くなりがちなんです。

──あー、ありがちですね。

紙パレット もちろん『逆転裁判』シリーズのように、うまくセリフまわしを考えているゲームもありますが、やっぱりテキストが長くなりがちになってしまう。そのテキストの内容があまり考えられていないと、プレイヤーはボタンを連打して無駄に飛ばすことになってしまう。

──確かに。

紙パレット 僕、5年ほど前に趣味でマンガを描き始めて、話を作る手段がマンガしか知らないんです。このゲームの中にも通常のテキストのパートもありますが、マンガの方が感情を表現しやすい。

それにマンガって、制作コストが高そうにみえてそうでもないんです。同じ会話を全部3Dキャラにでやろうとするとものすごく大変で、ちょっと困った顔を作るとなると、それだけで1日かかってしまう。しかも1日かけて作ったけど微妙……ということが起こりがちなのですが、マンガなら描けばいいので。それならインディーでコストがかけれないところは、マンガでやろうと割り切っています。マンガなら吹き出しの大きさが有限なので、セリフを短くせざるを得ないのもいいいところです。

──なんか盛りだくさんで、単純な3Dアドベンチャーゲームじゃないんですね。

紙パレット 最近、「ハートフルアドベンチャー+リズムアクション」と呼ぶようにしていて、これがジャンル的には一番正確ですね。

──リズムアクションというと、音ゲーのパートもあるみたいな感じでしょうか。

紙パレット そうですね。もともと勤めていたのが音ゲーが得意な会社だったので、そのノウハウを使いたいなと思って入れました。あとはダンジョンに出てくるボスと何かをしたいのですが、話すだけだとボタンを押して終わりなので、戦いではない何かをさせたかった。

そして音ゲーでいえば、1996年にリリースされたPlayStation向けの『パラッパラッパー』や、1999年のドリームキャスト向け『スペースチャンネル5』など、音ゲーをやっている最中にストーリーが進んで行くタイプが好きです。『初音ミク -Project DIVA-』とかもそうですが、曲ごとに演出が変わるので、すごく制作コストがかかるんです。

──確かに、音ゲーは止め絵とか簡単なパラパラアニメが多いですね。

紙パレット 『ジラフとアンニカ』も同じで、音ゲーをやっている最中に話が進んで行く演出が入っていて、それがうまく進行するととても気持ちいい。ただ作るのに手間がかかることもあって音ゲーの中では少数派なのですが、そういうのの復権をちょっとだけ目指してます。いきなりダンスが始まるみたいな強引なことができるのがゲームのいいところで、映画で同じことをやったら変なんですが、曲が良くて、絵と話がシンクロしていれば、ゲームでは謎の感動が生まれます。

ATLだから、必要なときだけ気軽にモーキャプを試せた

──そんな『ジラフとアンニカ』において、ATLはどんな用途で使われたのでしょうか?

紙パレット 海ダンジョンにおけるボス戦に出てくる魔女のリリィの動きを収録しました。TOMZUIN Hさんに作ってもらった南国風+沖縄民謡な曲をBGMに、ボスのカニと女の子が踊っているんですが最初は手付のモーションで、途中から女性に頼んだモーションキャプチャーに変わります。

──なんかキレキレのダンスというより、不思議な踊りっぽいですね(笑)

紙パレット きっちりとしたダンスじゃなくて、プロのダンサーさんから見たら謎ダンスに思われるかもしれませんが。

──いやでも、その雰囲気が可愛くてとてもいいです!

紙パレット このリリィがカニを操ってるみたいな設定で、実はカニのモーションも自分の男性の友達に頼んで収録しています。

──なんと!

紙パレット 上半身だけモーションキャプチャーで、足は手付けですけどね。

──でもリリィの仕草がカワイイですね。

紙パレット そうなんですよ。この曲3分近くあるんですけど、実は3分踊ってるんで後半とか疲れてくるんです。そこまでリアルに取れている。

──(笑)

紙パレット 最初は細切れに収録していたんですが、結局1本流しで取った方が面白かったという。ATLさんにはそんなに頻繁にきているわけではなく、モーションキャプチャーのときだけ使わせていただいてます。

──その気軽に自宅などででできない作業がATLで補えるのがいいところだと思います。

紙パレット そうなんです。まず自宅だと、アクターさんが動く広さを確保できないじゃないですか。それにスタジオ借りてモーションキャプチャーをするとなると、1日で30〜40万円からという世界で、インディーゲームを作っている人にとってはちょっと勇気がいる値段になってしまう。ATLは自分で操作が必要になるのでハードルも高いですが、最初にATLさん主導でモーションキャプチャーの講習会も行ってくれましたし、マニュアルも置いてあります。

──ATLの存在はどこで知ったのですか?

紙パレット Twitterか何かで見かけて、「あっ、これはモーションキャプチャーが使える!」と思って急いで登録しました。さっき見ていただいたボスシーンのように長いモーションを手付けでつけるのはほぼ現実的じゃないんですよね。

──確かに時間がかかります。キャラのモーションも自分で制作されてるのでしょうか?

紙パレット 最近は友達の知り合いに頼んでいますが、簡単なモーションは自分で付けたり、モーションのライブラリーを活用してますが、やっぱり曲に合わせて踊る場合だと、あり物では動きが硬かったりするんですよね。実はさっきの女の子もアクターさんをいきなり雇ってもきちんと取れるかわからなかったので、友達に頼んだんです。

──それでも結果オーライという?

紙パレット はい。「適当にダンスしてよ」ってお願いしたのですが、やたらノリがいいこともあって、偶然いいのが撮れたんです。実際、素人感もありますが、そこがちょっとリゾートっぽいくてカワイイ感じなんです。

──わかります。くだけた踊りみたいなのがうまく表現されています。

紙パレット そうそう。先にできていた曲をPCで流しながら、それに合わせて踊ってもらったら、偶然一発採りいいのができて、そのまま流し込んで再生しています。

──スゴい。でも手付けで同じことをやったら大変ですよね。

紙パレット いや不可能ですね。別のステージを先に作っていて、あり物のモーションをブレンドしながらつくったのですが、やっぱりちょっと硬くなりました。

──ATL自体の作業のしやすさはどうでしたか? モーションを収録するのは、ものによっては結構時間がかかるじゃないですか。

紙パレット 今回はそんなにモーションがなかったのと、最初はお試しで取ったので、そんなに時間はかけていません。

──そんなお試しで気軽に使えるところはATLの魅力ですよね。

紙パレット 30〜40万円払ったとなると、絶対に失敗できないじゃないですか。ATLさんですと仮に失敗したとしてもまた撮り直せばいいので気が楽ですね。

──そんな高い機材を必要なときだけ無料で使えて、創作のトライ&エラーができるところが、インディークリエイターにとってはすごくいいところですよね。

紙パレット Oculus RiftやHTC VIVEぐらいだったら揃えられますが、グリーンバックのスタジオとかはまず無理ですし、バックパックPCを使った実験なんてのも無理ですよね。企業なら100万円ぐらい用意すればできることかもしれませんが、僕は友達にバイト代と飲み代を奢ったぐらいで取れたのが本当にありがたかったです。

──スゴい。

紙パレット その去年の夏に収録できたおかげもあって、秋に東京ゲームショウに出した際に目に止まって、「TGS 2017 電撃アワード」のインディーズ部門で大賞を受賞する評価を受けられました。その前の2017年8月にも、制作に使っているゲームエンジン「Unreal Engine 4」のEpic Gamesより、優秀なデベロッパーに資金を提供する「UnrealDevGrants」を受賞することができました。

──そうした受賞も、現状のクオリティーを見てもわかります。

紙パレット ありがとうございます。これからももっともっとブラッシュアップしていきますので、ぜひ2019年前半のリリースを楽しみに待っていてください。

(●文・撮影/PANORA 広田稔)

ジラフとアンニカ公式サイト
https://www.giraffeandannika.com

atelie mimina (アトリエ・ミミナ)
https://www.atelier-mimina.com/