業務向けモーキャプのおかげでインディー映画制作が加速! 「爆裂!カンフーミサイル」に見るATL活用事例


2017年6月よりオープンしたアドバンスドテクノロジーラボ(ATL)ですが、1年以上が経過し、ラボが所有する最先端の機材を活用して生まれた作品がどんどん世の中に出て行っています。

ラボにどんな機材があるかといえば、例えばVRゴーグルでは、HTC VIVEOculus RiftといったPC向けのハイエンド製品だけでなく、Oculus GoMirage Soloといった2018年のトレンドである一体型まで用意。モーションキャプチャーでは、プロの現場でも使われているOptiTrack(オプティ・トラック)や最新鋭のPERCEPTION NEURON(パーセプション・ニューロン) 2.0などが使える上、OptiTrack収録のための8×4mのスペースやグリーンバックスタジオまで備える豪華さです。


お手軽モーキャプシステムの「PERCEPTION NEURON」。2.0の最新版を2台用意。


HTC VIVEとバックパックPCも。


クロマキー合成につかえるグリーンバックスタジオも完備。

声を大にして言いたいのは、これらの機材はATL客員研究員になっていただき、事前に予約するだけで無料で利用できちゃうという点!

研究開発の予算が確保できる企業ならともかく、個人や少人数で面白いことをやろうとしているエンジニアやクリエイターなら最先端の機材にまでお金を回すのが難しく、そうした背景を知っていると「えっ、マジで無料で使えちゃうの!?」と驚くはず。

この施設をもっと活用していただき、世の中にイノベーションを巻き起こしていきたい。そんな思いの元に運営しているラボで生まれた先輩作品をいくつか紹介していきます。

今回は、劇場公開のインディー映画『爆裂!カンフーミサイル』をピックアップ。9月17日の「新宿アクション映画祭り vol.3」にて上映されて大喝采を集めたアクション映画で、監督である大福氏(@daifukugoraku)とモーションアクターなどを務めた内海敦氏にお話を聞きました。ATLではOptiTrackによるモーションキャプチャー(モーキャプ)とグリーンバックを利用しています。

●予告編
https://youtu.be/7F1bCZFtj3o


日本政府の影の請負人、カンフー戦士たちが悪を懲らしめるアクション映画。Blenderでモデリングしたというクレイアニメ風のCGキャラが、所狭しと暴れまくるのが痛快!

・モーションアクター:清水万里亜、内海敦、さかまさみ、shin×ya
・声優:清水万里亜、内海敦、さかまさみ、清明、ケンゼン、雪、ゆきしろう・テーマ曲:ナカムラタカノリ
・コレオグラフィー:shin×ya
・CG/VFX協力:FUJI GRAPH、ケンゼン
・監督・編集:大福


左が内海氏、右が大福氏。


左から、主要人物の塩師匠、園田ジャッキーリン、サニーオノ。内海氏は塩師匠を演じた。

モーショントレースで挫折してATLに

──カンフーミサイルの「ここを見てくれ!」というこだわりを教えて下さい。

大福 やはりカンフーにこだわりがあります。それも香港映画ではなく、日本発祥の東映カンフーシリーズがルーツなのですがご存知ですか?

──いや知らなかったです!

大福 日本でも70年代の前半に空手ブームがあって、それが元になっています。

内海 ブルース・リーやジャッキー・チェンではなく、千葉真一や志保美悦子、真田広之。菅原文太の『トラック野郎』とかも入っています。だから、昔のベタなアクションへのオマージュがあるところがこだわりです。

──しかし、なぜ日本のカンフー?

大福 色々見てたんですが、やっぱりブルース・リーやジャッキー・チェンには行かなかったんですよね。今回はアクションやるなら格闘、格闘ならカンフーという発想です。

──元々、映画が好きでアクションを多く見ていた感じでしょうか?

大福 いや、どちらかといえばアクションゲームからはいって、映画に移っていったかんじです。ただやっぱりキャラクターを動かしたいという欲求は高くて、それを見せるならやっぱり戦わせるのが一番。自分はストーリーよりは、アクションでグッとくる動きを見せるほうが好きなんです。

──カンフーミサイルを作り始めた経緯は?

内海 自主映画を制作する人向けのウェブサイトがあって、そこで大福さんが募集をかけていたので、自分が応募したというのが最初です。

大福 内海さんが役者で、僕が若い頃にCGを覚えて、そのあとに趣味で続けていたという感じです。

内海 本業のサラリーマンの傍ら、空いてる時間で役者や映像制作もやっています。カンフーミサイルではストーリーのアイデアもだしたり、知人のつてで「新宿アクション映画祭り」での上映を引っ張ってきたりしました。元々は今作ってるものじゃなくて、『マッドマックス』みたいなCGカーアクションを撮りたいという話で制作が始まったんです。

大福 一年ほど前ですかね。当初は実写の人の動きをなぞるモーショントレースでCGキャラを動かそうとしていたんです。「Miku Miku Dance」(MMD)ってフリーのCG制作ツールでは、実写を元にモーショントレースしている人もいて、そのやり方を踏襲しようと考えたんです。

内海 それで体育館を借りて、跳び箱を重ねて実際に動きを撮影したまではよかったんですが、なかなか完成に至らなかった。

──といわれると?

大福 モーショントレースを実際にやってみてわかったのですが、ものすごく難しかった。上手い人もいますが、とても時間がかかるんです。

──ですよね……。MMDでは、4分ぐらいのダンス動画を年単位でトレースするなんて話も聞きますし。

内海 少しできたものを見せてもらって、それなりにクオリティーはあったのですが、その後、大福さんから「もうちょっと待ってください」みたいなことを言われてなかなか完成しなかった。自主制作でありがちな「完成できずに終わりかな?」とも思っていたのですが、あるとき大福さんからこのATLのスタジオが無料で借りられてモーションキャプチャーの機材も色々揃っているという話を聞いて、じゃあ行ってみようということでATLに来たわけです。

──お二人ともモーキャプ機材を使った経験はありましたか?

大福 自分は昔、マイクロソフトがXbox用に出していたジェスチャー入力デバイスの「Kinect」で遊んでいたことがありました。ただkinectでは精度が出なくて、動きが面でしか取れないのでカニみたいに動くしかなくなってしまうんです。Kinectを2台、4台と並べて動きを取るやり方もみましたが、あまり精度がよくなさそうだった。色々やってダメだったのでモーショントレースに挑戦したものの、それも厳しくてATLに来た感じです。上映会に参加する話も出てきたので、とにかく時間がなくて……。

──最短で一番結果が出せそうなということでATLに来たという。

大福 そうですね、はい。

──映画はCGの動きだけで完成するわけじゃなく、その作業を短縮できればほかの質を上げるところに集中できますしね。

内海 そうですね。ストーリーも膨らんできましたし、大福さんがネットでVFX(CGの特殊視覚効果)ができるFUJI Graphさんを見つけてきましたし。

大福 そうなんです。自分もスキルに限界があるので、ネットで爆破の表現がすごく上手い人を探して「お願いします!」って頼むことができました。

作業が圧縮できたおかげで作品をブラッシュアップできた

──実際、ATLでのモーキャプはどんな感じで進められたのでしょうか?

大福 その頃、平日のお休みだったので、月一回ほど撮影しましょうと連絡を取り合いながら、ちょこちょこと収録していました。

──一回で全部取ったわけではなく、「今日はこのシーンをやろう」という感じで数回にわけてやっていました。

内海 そうですね。ATLでモーションキャプチャーしながら、「今度はこうゆうところも必要だよね。じゃあ次回は……」みたいな感じで、段々形にしていきました。

──じゃあ、本当にここのスタジオがなかったら成立しなかった映画だったんですね。

内海 しないですね。全部で5、6回は収録したのでATL様様です。

大福 アクションなのでコマ切れの動きも多く、それを何十回も撮らなきゃいけないですし。

──各シーンで目指した理想の動きみたいなのがあったわけですよね?

内海 そうですね。こだわってますから。

──収録機器はOptiTrackとのことですが、映画やゲームなどの制作に使われるプロ用機材の使い方を覚えるのは大変じゃなかったのでしょうか?

大福 講習会に来て覚えました。あれがなかったらできなかったです。

──それ一回で覚えて、あともう実践?

大福 そうですね。ただやっぱり機械なのでうまくいくときといかないときがあったりもしました。アクションだから2人以上のキャラクター出して動かしたいのですが、前回は2人で使えたのに今回は認識しなかったりとか。その時は1人で2人分の動きをやってもらって解決しました。

──それでもモーショントレースよりは断然楽だったという?

大福 そうですね。10分尺の作品を作る予定だったのですが、3ヵ月ぐらいかけて1分しかつくれなかったので。

──単純計算で2年半かかるってことですよね。

大福 そうですね。その時間が短縮できたので、その分カメラアングルを考えたり、レンダリングの質を上げたり、マテリアルをきれいにしたり、編集に凝ったりと、ほかのことに時間を使うことができました。だからATLが使えていなかったら完成できなかったです。

ハードルが下がるインディー映像制作の世界

──インディー映画を取り巻く環境って、最近では変化があったりするのでしょうか?

内海 一緒にやってきた仲間で言えば、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が一気に脚光を浴びていて、業界自体にも注目が集まっていると思います。お金をかけるだけじゃなくて、無名でもいい作品を作る監督や俳優も実はスゴいという意識が芽生えてきてる。僕らは自主制作で結構辛い思いをしてきましたが、日本でもようやく上田さんがやってくれたという気持ちはあります。

──ネットの普及で変わったところもありますか?

内海 今だとクラウドファウンディングで面白そうな作品に「お金出してあげようかな」と考える人も出てきています。

──映画「この世界の片隅に」もクラウドファウンディングで始まって大ヒットした映画ですよね。お話を聞いていて思ったのですが、内海さんは役者のキャリアが長いのでしょうか。

内海 実は結構長くて、今、50過ぎですが、28歳で劇団の養成所に入ってずっとやってきました。

──演劇で食べていくのは本当に大変ですよね。人生をかけても成功するかどうかわからない。

内海 そうですね。僕の同期でも演劇を辞めてしまっている人がほとんどなんです。でも例えば吉田羊さんのように劇団出身で、再現VTRなどの下積みを経て今の開花がある方もいて、そうした仲間ががんばって成功するのを見るとすごく嬉しく感じます。

──昔に比べると、カメラもデジタルになって、映像を撮るのも編集するのもコストがずいぶんと下がってやりやすくなっていますよね。

内海 はい。僕らの頃は8ミリフィルムで、高いし、面倒くさかった。それを考えると全然楽で、うらやましい状況だと思います。若い人でもVFXが使えますし。

──逆に何歳になってもインディーでやりたい表現にチャレンジできる環境があるとも言えます。

大福 ただ、思ってもやらないですからね。

──そうなんですよね。「こんな映画あったら面白いよね」と話で盛り上がっても、じゃあやるかといえばやらない。

内海 そうですね、難しいですね。

──それでもカンフーミサイルをつくろうと思ったのは続けてきたから?

大福 自分は一人だとやる気が出なくて、なにもつくれないんですよ。一緒にやってくれる=見てくれる人、少なくともメンバーも観客なわけで仲間がいるっていうのは強いですよね。

──本作は最終的にネットで公開する感じなのでしょうか?

内海 大福さんはYouTubeで公開したいといってますが、僕はいくつかコンクールや別の映画祭にも出したいと思っています。実写のアクション映画は多いですが、カンフーミサイルみたいな作品はないので。

──最後に次にやっていきたいことを教えてください。

内海 またアクションに挑戦してみたいですね。すべてATLさんあっての実現だったので感謝しています。また、こんないい環境のところで撮影したいですね。

(●文・撮影/PANORA 広田稔)

爆裂!カンフーミサイル 予告編
https://www.youtube.com/watch?v=7F1bCZFtj3o